INTERVIEW 002
GRADUATE
BreadBoard Baking
アートユニット(鈴木英倫子(アーティスト) 柏木恵美子(デザイナー) かくだなおみ(デザイナー))
コンセプトは「理系男子の夫に受けそうなもの」
独自の世界を展開するスピンオフユニット
小林茂教授の「PDP(プログラマブル?デバイス?プロジェクト)」を通じて結成されたDIYバンド「The Breadboard Band」。バンドから派生して、メンバーの3人の妻たちが始めたアートユニット「Breadboard Baking」は、『食べられるブレッドボード』や電子回路アイシングクッキーなど、ギーク心を絶妙にくすぐる作品を次々と発表し、注目を集めています。
それぞれに“本業”を持ちながら、心地よい距離感で制作を続けるアートユニットを、「The Breadboard Band」の“生みの親”である小林教授が紹介します。
ga「私たち、食べ物で人気者になれるんじゃない?(笑)」(鈴木)
小林:IAMASを卒業した後も継続して活動しているグループはあるようでそれほどないかと思います。最初に「BreadBoard Baking(以下BBBaking)」がどのような活動をしているのか伺えますか。
鈴木:そうですね。「The Breadboard Band(以下BBBand)」のやっていることに目新しさがあるので、そのおまけユニットとしての「BBBaking」も目新しく感じられるかもしれないですね。
「BBBand」は、ブレッドボードを用いて演奏するバンドで、小林(茂)さんが中心になって進めていたPDP(プログラマブル?デバイス?プロジェクト)の一企画として結成されました。メンバーは、「BBBaking」のメンバー3人の夫(大石彰誠、原田克彦、斉田一樹)です。
柏木:彼らは2005年の結成で結構長いんですよ。「Maker Faire(以下Make)」があるから続いてる感じなのかな。
鈴木:「Make」やIAMASがらみのも含めて、年に1?3回くらい定期的にライヴの需要があるみたいです。
そうしたイベントの時に、「隣で何か出そうよ」と私が柏木さんに声をかけたのが「BBBaking」の始まりですね。
最初は4年前の「Make」に「すずえりとえみり」という名義で参加しました。なので、私たちは卒業してからの結成になります。
柏木:「BBBand」は1回目(2008年)の「Make」から毎年参加しています。家に準備をしている人がいるから、必然的に手伝うことになる。当日はライヴがあるので、その間は代わりに店番をしたりして。名義はなかったけど、自分も毎年「Make」に参加している気分ではあったんですよね。
小林:なるほど。
柏木:私も「自分のブースで何かやりたいなー」とずっと思っていたので、すずえり(鈴木)から誘われて、自然だなって。
鈴木:最初の年は手当たり次第アイデアを出して、アイデア帳みたいな豆本と、実際いくつかの作品を作って展示しました。
「BBBaking」のコンセプトのひとつは、理系男子へのプレゼント。「夫に受けそうなものを作ってみようかな」というのは柱としてありますね。だから本当に自分たちが作りたいものかっていうのは、ちょっと謎だよね。
小林:(笑)。
鈴木:最初にえみり(柏木)と何か作ろうとしたとき、色々出したアイデアの中に、「ケーキの飾りに使う銀色のアラザンって電気を通すのでは?」というものがありました。それを実際に展示したら、反響がすごかったんですよ。「あ、食べ物いけるんじゃない?」「私たち、食べ物で人気者になれるんじゃない?」って(笑)。
それで、2年目は食べ物にしぼって制作しました。クラッカーに回路をつけたものと、他に何かあった?
柏木:カップケーキも出したよね。
鈴木:そうそう。えみりが焼いてくれたカップケーキとクッキーに、私が回路を差すみたいな作品でしたね。
それらの作品を(Maker Media創始者の)デールが気に入ってくれて、展示会場で「BreadBoard Bakers」と命名してくれたんです。でも「BreadBoard Baking」って聞き間違えて、そのまま名前にしちゃいました(笑)
柏木:デールに見つけてもらったのは私たちにとって大きなことでした。翌年からは「BBBaking」の名義で出展しました。
「料理をしないからこその、食べ物に対するパンク精神がおもしろい」(柏木)
小林:意図して活動をしていたわけではないのに、結果的にこうなったというのがおもしろいですね。
鈴木:やはり「BBBand」ありきですね。偶然にもデールが同じような名前をつけてくれて「BBB」が2つできた。
加えて、食べ物のポテンシャルの高さも大きいと思います。私は料理があまり好きじゃないので、いまだにちょっと困ってます。
小林:反響に困ってるということですか?
鈴木:自分では料理を作らないので、そこは二人任せで。
柏木:すずえりは料理が苦手だけど、それゆえの食べ物に対するパンク精神みたいなものを持っていると思うんです。日常的に料理をする私たちには逆にそれがあまりない。
鈴木:食べ物に対する抵抗だよね。「食べ物で遊んじゃいけません」っていうのが私にはあまりないというか。だから割といいバランスかもね。
柏木:かくちゃん(かくだ)は子どもに食べさせてるから、特にあるでしょう?
かくだ:そうね。
鈴木:食べ物をおもちゃにしないようにって(笑)。
柏木:こんなもの食べさせられない、とかね。
一同:(笑)。
小林:かくださんはいつから加わることになったのですか?
かくだ:「BBBaking」という名前になった時ですね。名前がついた時に、誘ってもらいました。「BBBand」に付随しているものだから、組み合わせ的にすごく分かりやすいなと思って。
柏木:BBBandの妻たち全員が揃ったことで、「BBB」としての活動内容がより明快になりました。
かくだ:食品については、以前リサーチしていた部分があったので、私の発表の場所がそこにあるかもしれないとも感じました。それで誘いを受けて、「やりましょう」と。
でもそのタイミングで子どもができたので、いきなり育休中です。
鈴木:最初の頃はすごくアイデアを出してくれて。確かオンラインの講義も受けていたんだよね?
かくだ:そうなんですよ。「エル?ブリ」のシェフが講師役の授業を受けて、科学的な視点を持った調理方法について学びました。かじった程度ですけど、その知識を「BBBaking」にも持ってきたら、「おもしろいことできるかなー」って。そこで止まっているんですけどね。
小林:これらの「Make」で販売していたクッキーや角砂糖はどのように作っているのですか?
鈴木:販売するためには保健所の許可が必要なので、これはSUNBAKED SWEETS(サンベイクドスイーツ)というクッキー屋さんと一緒に作りました。
柏木:元々はアイシング(粉砂糖と卵白を練り上げたお菓子のデコレーション手法)を習いに行ったところなのですが、ノリの良い人で「今年のMakeで一緒に作りませんか」と声をかけました。
小林:再現度がとても高いですよね。写真があれば再現できるのですか?
鈴木:写真があれば作ってもらえますが、クッキーにするためには一度デザインしなおすというか、デフォルメする作業が必要です。実はそれがすごく重要だったんですよ。
例えば、ローランド808は色だけで分かるから、ロゴはいらないとか。この線はあった方がいいとか。そういうオタクならではのチェックを私たちがしています。この角砂糖の抵抗の色とかも斉田君(鈴木さんの夫)に見てもらいましたね。
小林:お客さんは細かいところまで反応してきたのですか?
鈴木:主に細かいところですね(笑)。楽器がクッキーになっていることには特に驚いてなくて、ディティールの細かさと正確さに反響があった。
実際に販売してみて、買ってもらうためにはこんなに人の話を聞かなきゃいけないんだということも初めて知りました。
小林:こっちが説明するんじゃなく、お客さんが?
鈴木:「なぜ僕がこれを買うのか」という思い入れを。
一同:(笑)。
鈴木:こちらの説明の仕方がにわかだと買ってもらえないので、知識も必要です。「これ、何の回路だっけ?」って言ってくる人に対して、正確に答えられないといけない。
柏木:「Make」特有ですね。思い入れが強い。その一筋縄じゃいかないところがおもしろさでもあります。
小林:そのやりとりだけでも本になりそうな感じがしますね。買った人に「なぜ僕がこれを買うのか」をインタビューしに行って。すごく語ってくれそう。
「IAMASという物語を共有しているから、安心感がある」(かくだ)
小林:今後はどのように活動していきたいと考えていますか?
鈴木:それぞれ本業や家庭があるので、ガッツリという訳にはいかないですが、何か落としどころはほしいなと思っています。食べ物は作り貯めできないのが難しいところなのですが、発表する機会はほしいですね。
かくだ:今、クッキーを引っ張っているのはえみり。お菓子楽器をつくっているのがすずえり。私も何かメインになれるものがあればいいよね。
柏木:3人が得意なこと、思いついたことをやっているだけでも、いいバランスが取れている感じはしています。
かくだ:やはり学生時代を知っているので、いい力加減というか。事前の打ち合わせなしでも自然に隣にいられるというか。IAMASで一緒だったという物語を共有しているから、安心感がありますね。
鈴木:今企画しているのは、来年の「Make」では小さいリーフレットを作れたらいいなと。コンテンツは増えているので、レシピ本というか、アイシングの図案集というか。作品の写真集もかねて、本の通りに作ればこれができる、みたいなものをまとめられたらいいなと思っています。
柏木:料理の苦手なすずえりがそれを見て作れるようなレシピ本とかね(笑)。
すでにネット上ではクックパッドやThingiverseでレシピを公開しています。これは去年3Dプリンターで作ったクッキーの型なんですけど、この3Dデータはダウンロードできるようになっています。
小林:誰でも型をダウンロードして作ることができるってことですね。
柏木:電子回路の回路図記号のクッキー型が予想に反してダウンロードされていて、データ自体はとても簡単なものですが意外に需要があるみたいです。「やっぱりみんなLEDの記号が好きなんだな」とか、クッキーそのものを販売するだけでなく、データを共有することでコミュニケーションツールとして機能しているのはすごくおもしろいなと思っています。
あとは、以前海外のメディアから、日本のフードハッカーをまとめて紹介するということで取材されたことがあるんです。バイオアートが盛り上がっているので、その中のフードを使ったいちジャンルとして活動していけたらかっこいいかなと考えています。
小林:スイーツだけでなく、フードにも範囲を広げていくイメージですか?
かくだ:オーブン周りの出来事や、通電することがアイデアのとっかかりになっているから。そこから生まれるものはスイーツだけではなさそう。
鈴木:Bakingからは離れない。でも、電気が通っていて口に入れることができるなら、普通の食事でも、それこそ水でもいいと思ってるんです。
小林:なるほど。「BBBaking」だから、それはひとつのキーワードですね。
かくだ:キッチンがアトリエみたいになっていったら楽しそうですよね。
小林:レシピ本も含め、実現できたらおもしろいですね。
取材:20170826 403 co-place
編集?写真:山田智子