IAMAS Graduate Interviews

INTERVIEW 038

INTERVIEWER クワクボリョウタ IAMAS教授
#2024#EDUCATION#RYOTA KUWAKUBO#WORKSHOP DESIGN

GRADUATE

野呂祐人

クリエイター?函館短期大学保育学科専任講師/2019年修了

「即興工作」で創造力を生み出す仕組みづくり

InstagramやYouTubeで注目を集めている「即興工作」。材料が書かれたサイコロを2つ振り、その組み合わせで工作するショート動画のシリーズです。この動画を発信しているのは、IAMASを経て保育の教育現場で教鞭を執る野呂祐人さん。美術やプログラミング、ワークショップの考え方を通して、いま工作の動画で発信したいこととは。修士研究で野呂さんの副査をしたクワクボリョウタ教授が話を伺いました。

“縛り”のなかでこそ生まれるアイデア

クワクボ:野呂くんの「即興工作」がYouTubeでブレイクしていますね。ぼくも見たんだけど、磁石と紙コップを組み合わせた「じしゃクック」。あれ、かわいいよね。

即興工作 じしゃクック

野呂: このアイデア、じつはあんまり気に入ってなかったんです。磁石がひっくり返るだけなので、そりゃこうなるよねって。だから、勤めている保育学科の学生に「これ、単純すぎるからボツにしようと思うんだけど……」って言いつつ見せたら、「いや、先生これ、おもしろいですよ。(動画を)あげなきゃだめです」ってすごい怒られて。半信半疑で投稿してみたらバズった。学生の言うとおりにしてよかったです(笑)

クワクボ:やっぱり仕組みがシンプルなのがいいよね。「いないいないばあ」の要素もあるから、その魅力は普遍的なのかもしれない。

野呂: 料理に見立てればおままごとにも使えるし、科学の要素もあるから自由研究に使えるかもしれません。それから、「じしゃクック」を見た視聴者さんのアイデアをもとに、僕が工作する「アンサー工作」という動画も作っています。たとえば、グーチョキパーでじゃんけんをするとか、忍者がひっくり返って隠れ蓑にパッと隠れるとか、将棋の駒が成るとか。

アンサー工作「じしゃクック編①」

クワクボ:おもしろいですね。磁石もフェライト磁石を使ってるところが偉いよね。

野呂: ネオジム磁石などを使ったマグネット玩具は、誤飲の危険があるものは、国が製造や販売を規制しています。教育現場での使用も注意をしなくてはいけないので、規制後は動画でネオジム磁石を使わないようにしています。

クワクボ:ちなみに、即興工作に登場する材料は何種類くらい?

野呂: 30数種類でしょうか。即興工作では、材料を書いたサイコロを6つ用意しています。そこから2つを選んでサイコロを振るので、36通りの組み合わせが出てくることになります。

クワクボ: 「発想が生まれやすい自由度」っていうのがあるのかな。材料の種類が限られているからこそ、いろんなアイデアが生まれやすい……即興工作の動画を見ながら、そんなことを思いました。

野呂:そうかもしれませんね。制限といえば、サイコロで出た材料の特性を必ず使う、という縛りを制作に課しています。たとえば、「無限ラムネ」という工作では、プラコップとビー玉を使っていますが、プラコップは硬くて弾性があるので、紙コップでは代用できない使い方をする。ビー玉は硬くて球体なので、石やピンポン玉では代用できない使い方をする。この2つの材料の特性を活かしたアイデアだけを「採用」としているんです。

クワクボ:なるほど、おもしろいですね。僕の研究室には道具も材料もたくさんあるけど、限られたものしか置いていない自宅のアトリエのほうが、プロトタイプを作るときは捗るんだよね。なぜなんだろう。「この道具がなければ、これとこれでやろう」って機転が利くというか。自分の頭の中と環境が、いい感じにマッチする状態があるのかもしれない。

野呂:僕は小さい頃から「なんでもあり」という状態だとものが作れなかったんです。だから、なんらかの「縛り」を設けるようにしています。関係ない話かもしれませんが、僕はたくさんの人を前にすると、どうしても全員を活かさなきゃいけないっていう気持ちになってしまって。とくに、教育の現場だと「子ども全員に反応しないといけない」と思ってしまう。同じように、工作の材料も数が多すぎると使いすぎてしまったり、バイキングに行くと全種類を取っちゃったり(笑)。

クワクボ:僕もバイキングのことを思い浮かべました(笑) バランスよくおかずを選ぶ人もいれば、揚げ物ばかり取っちゃう人がいたり。バイキングって、頭の中が形になって見えちゃうからおもしろいよね。

仕組みのあるおもちゃづくり

クワクボ: 話は遡るけど、野呂くんはIAMASの修士研究で「モノトーク」というワークショップのデザインに取り組んでいたよね。どんなワークショップだったのか、あらためて教えてもらえますか。

野呂: モノトークは造形行為だけでコミュニケーションすることをテーマにした共同制作をするワークショップです。モノトークには「1」と「2」の2種類があります。モノトーク1は、2人1組が対面して、「会話をしない」というルールのもと、交互にひとつずつ材料を接着して形を作っていきます。材料は洗濯バサミや紙コップ、石、木の枝など、30種類くらいから選んでいきます。

クワクボ: ただ一緒に造形するのではなく、ルール設定があるんだよね。

野呂: はい、一方の「モノトーク2」はルール設定が異なります。これは3人が共同して積み木を使って造形します。仕切りのある回転する机を使って、相手の姿が見えない状態で、他の人が作った積み木に新たな形を足して造形していく。お互いの作った形に触発され合うこと、相手のアイデアに次々にアイデアを加えて発展させることを重視しています。

クワクボ: 2のほうはルールがよりストイックだよね。

野呂: そうですね。ものづくりにルールを設けることで生まれる発想やアイデア、人の関わり合いに興味があって研究していました。僕はゲームの「縛りプレイ」(既存のルールに加えて、プレイヤーが独自に設けたルールを守りながらクリアを目指す遊び方)が好きなので、そのようなイメージでワークショップを考えたんです。

クワクボ: 制限やルールを設けるという点では、即興工作にも通底しているね。

野呂: IAMASのときは人と人とのコラボレーションや創造性に着目したくて、モノトークではあえて素材の種類を制限したのかもしれません。いまクワクボさんと振り返って話しながら、そんなことを思いました。

クワクボ: 即興工作の動画を始めたきっかけは?

野呂: いくつかの理由があります。ひとつは北海道の短期大学に赴任した頃、ちょうどコロナでワークショップが開催できなくなってしまったことです。もうひとつは、勤務先の函館ではあまりワークショップという技法が浸透していないこと。それに、もっとも大きな理由が、保育という5歳以下の子どもと関わる環境に身を置いたことです。友達どうしのコミュニケーションが遊びに反映されるのは、だいたい4歳くらいからだと一般的に言われていて、共同制作自体がやりにくくなってしまった、というのがその理由です。

クワクボ: なるほど。

野呂:一方で保育や小学校向けの教材ってもっといろいろなことができるよな、という思いもあったので、自分で作ってみたのが即興工作のはじまりです。それに僕がいないと再現できない教材じゃなくて、僕がいなくても成立するような、汎用性のある教材づくりをしよう。人との関わりを志向する考え方をいったん忘れよう、と切り替えたんです。

クワクボ: いま勤めている環境では、修士研究とは違うアプローチが必要だと思ったんですね。

野呂: 保育者向けの研修などで教えるときは、人との関わりや創造性のあり方について話すことはあります。でも、美術大学からIAMASを経て、保育に関わっている自分がいますべきことはなんだろう、ってすごく考えたんです。それで、保育の教材はもっといろんなものが作れるはずだと。

野呂: あと、いまプログラミング教育が小学校で始まって、幼少期はどんなことをしたらいいのか、という議論があるんです。例えば、風を受けたら回るとか、傾けたら転がるとか。「こうしたらこうなる」ということが体感できるような、なにかしらの仕組みが備わっているおもちゃを子ども自身がつくる経験が必要だと僕は思っています。そう考えたときに、IAMASでの経験を踏まえて、自分で教材開発を始めてみたんです。

クワクボ: 即興工作の根底には、プログラミング的な発想があるんだね。

野呂: 僕自身はプログラミングが苦手なんですが、その考え方は通底していると思いますね。

クワクボ: プログラミング思考とパソコン上にカタカタと文字を叩く行為は、かならずしもイコールではないよね。プログラミング教育のつもりがパソコンを使うトレーニングになってしまうと、年齢によっては無益どころか有害というか。物理的な世界と関わる経験がなくなって、根底から間違った方向にいってしまう気がする。

野呂: そうですね。現実のモノに触れるという幼少期の大事な機会が失われてしまいかねないですよね。たとえば、初等教育で「2の2倍は4です」と算数の考え方を習うときは、算数棒を触って長さが2倍になっていることを実際に手で確かめたほうがいい。こういうときに無理にタブレットを使わせるんじゃなくて、僕は工作で仕組みづくりをやればいいんですよ、としきりに言っています。

クワクボ: その通りだよね。仕組みといえば、即興工作の「マグネード」がおもしろかった。筒と磁石を使って、中身が見えないから、どうしてこうなるんだろう、と考えさせてくれる。こういう仕組みをフィジカルに体験することが、本質的にはプログラミング教育につながっていくんだろうね。

即興工作 マグネード

野呂: SNS上でシェアされている保育系の教材動画は、装飾にこだわったり見栄えの部分を作り込むことが多いんですが、即興工作は必要がなければ装飾は施していません。仕組みだけを提示して、「さあ、きみはこれで何をつくる?」と、あとは子どもたちに考えてもらう。

クワクボ: 自分もやってみよう、と思わせないといけないタイプの工作だよね。まず仕組みがあって、次に見立てがある。そういう順番なんだね。

子どもが遊びながら創造できるサイクルをつくる

クワクボ: ちなみに、即興工作のショート動画は完成までどれくらいの時間が掛かっているんですか。

野呂: プロトタイプを作るのはサイコロを振ってから1時間?1時間半くらいです。そのあとに子どもが作りやすいような工程──たとえば、曲面にいきなり絵を描くのではなく、平面の状態で絵を描いてから丸めるような順番──にしてから撮影しています。そのあと編集が2時間くらいなので、だいたい半日くらいでしょうか。

クワクボ: はじめにプロトタイプを作って、工程を組み立ててからもう一度作り直しているんだね。

野呂: はい。たとえば、紙コップで作る「じしゃクック」のフライパンは、取っ手の部分が三角錐になっています。これを作るとき、のりしろを設けると4面になってしまい、取っ手の展開図が非対称になっちゃうんです。なので、左右が均等になるように面を減らそう。そのためにはのりしろを省略して……ということは、セロテープの仮貼りがいるから……というふうに考えながら工程を組み立て直しています。

クワクボ: すごい! 即興工作のショート動画を見て、実際に作ってみたいと思った人はどうしたらいいの?

野呂: ショート動画を見ただけで作ってしまう人も多いのですが、もともとInstagramで作り方の紹介をしていたんです。10枚の画像を投稿できるので、即興工作を10の工程くらいで見せられるようにしていました。いまはYouTubeの長い動画に移行しようと考えています。

クワクボ: 野呂くんは工作の絵本を書いたらいいんじゃないかな。本は現場に置けるから。

野呂: そうですね、いずれ紙で見られるかたちで世の中に発信したいです。さきほど、人との関わりをいったん考えない作り方をしたと話したんですけど、ネット上に発信すると、視聴者の方から「こういうふうにアレンジしました」と写真が送られてきたり、「こんな使い方もできるのでは」といったアイデアが寄せられたりすることがいっぱいあるんです。なので、即興工作のYouTubeチャンネルは、そんなアイデアの掛け合わせができるように育てていきたいですね。

クワクボ: ものづくりのコミュニティを醸成していこう、と。

野呂: そうですね。視聴者さんとのやりとりを通じて、さらに新しいアイデアが生まれるような仕組みをつくっていきたいと思っています。将来的には、子どもが集まって工作が自由にできるようなスペースを作りたいなと。教育関係はお金の工面がなかなか難しいので、そのスペースで生まれたアイデアをネット上でシェアできるようにして、そのお金でまた子どもが遊びながら新しいものを作り続けられる。そんなサイクルを目指したいですね。

クワクボ: ハッカースペースの子ども版みたいな?

野呂: はい(笑)。いま、研究者やアーティストの頭の中の思考を世の中に出す手法が多様化しています。ワークショップという形式はそのひとつですが、YouTubeのような動画メディアでも上手に発信する人もいます。アイデアを豊かに持っているアーティストを発信するのは、学芸員だけではありません。ネットに精通している人がもっと介入してもいいのかなと思います。僕はいまひとりでYouTubeチャンネルを運営していますが、それぞれの得意分野を活かして複数人のチームで発信してけば、よりアイデアがシェアされていく世の中になっていくと思います。

クワクボ: どのメディアを選び、そこでしかできない活動のあり方を考える。それこそ、まさに「メディア表現」だね。

取材: ope体育_ope体育app|官网[IAMAS]

編集: 水野雄太 / 写真: 福島諭

PROFILE

GRADUATE

野呂祐人

クリエイター?函館短期大学保育学科専任講師/2019年修了

1992年北海道生まれ。2019年にope体育_ope体育app|官网[IAMAS]メディア表現研究科を修了。2021年より函館短期大学専任講師を務める。共同制作における創造性とコミュニケーションをテーマとした子ども向けのワークショップの企画や運営を行なっている。主なワークショップは、《モノトーク?シリーズ》《とくめいおえかき》など。また、YouTubeやSNSでオリジナルの工作や教材を動画で発信している。主な動画シリーズは《即興工作》《アンサー工作》など。

 



INTERVIEWER

クワクボリョウタ

IAMAS教授

1998年より活動を開始。電子デバイスを素材とした装置的な作品《ビットマン》(1998)、《PLX》(2000)、《ニコダマ》(2010) などを発表。 《10番目の感傷(点?線?面)》(2010) 以降は、内面での体験を重視した光と影のインスタレーションを制作。