2024年 リンツ美術工芸大学交換留学体験記(前編)現地の生活と研究の変化
こんにちは、博士前期課程2年の山口結子です。
この度はリンツ交換留学プログラムで3ヶ月の留学をしました。私はIAMASでコミュニケーションの分野に注目し、その中でも他者との関わり合いを俯瞰的に見る行為の創出、時間や距離の中で生まれる関わり合い方、コミュニケーションの変化について研究しています。
4月?6月の3ヶ月間滞在した留学での様子や生活などを皆さんにお話ししたいと思います。
街と文化交流が盛んな街、リンツ
リンツへきてからというもの、「豊かさ」についてとても考えさせられる日々でした。日本国内は物量といい娯楽といい、とても豊かですよね。もちろんオーストリアも豊かな国ではあるのですが、違う豊かさの基準があるような気がしました。それを感じた出来事として、イースター休暇が終わった頃に開催された「STREAM CLUB」のイベントがあります。このイベントは、リンツ行政のAGやラジオ局がスポンサーになっており、サウンドアートやDJ、VJなどのパフォーマンスがリンツ市内のカフェや文化施設、教会で行われます。
私は宮城県仙台市の出身で、毎年ジャズフェスティバルが街全体で行われたりなど、街が主催した音楽イベントについては慣れ親しみがありました。ですが、DJやVJなどの新しいカルチャーから派生した音楽や表現が街のスポンサーによって行われること、教会などの宗教施設でサウンドアートが行われることにはとても驚かされました。また、街の人々がそれを受け入れ楽しんでいる様子がとても新鮮でした。そんなおおらかで様々な表現や音楽を受け入れるリンツという街が、メディアアートの世界的な発信地として現在も続いている訳が納得できる体験でした。
STREAM CLUB以外でも祝日の前にはハウプト広場で催し物が行われたり警察の音楽隊フェスティバルが開催されたりします。短いスパンで音楽や芸術、文化などに触れられるイベントが開催されることはとても新鮮でした。
オーストリアは南ドイツの文化やキリスト教の影響もあり、お店がかなり早い時間に閉まります。日曜日はほぼ全てのお店が閉まることもあり、街全体がのんびりとした、ゆったりとした空気に包まれているように感じました。日本から来た当初は、そののんびりさにやきもきし、逆に時間に縛られているのではないか?と困った時期もありました。しかし、こちらの生活に慣れるにつれて、コミュニケーションの研究とも関連させながら、時間にゆとりを持つことや、休むこと、待つことの大切さを実感し、人と人との間にある「間(ま)」という要素に気づきました。
また、この間を通してヨーロッパと日本の差を探したり、自分自身の他者との関わり方を見つめ直したりしながら、現地で体感した出来事を作品に活かしていきたいと思うようになりました。
留学の目的、研究の変化
渡航前は、SNS上のコミュニケーションに興味を持ち、それに関連する作品を制作していました。具体的には、メディアやテクノロジーの進化によって高速化したコミュニケーションが引き起こす齟齬(そご)や、それがもたらす心理的?社会的影響をテーマに掲げ、その状況を振り返り、見つめ直すための方法を研究していました。
留学の目的は、海外のインターネットやSNSのサービスの種類や使い方をリサーチし、コミュニケーションの高速化や意見の極化が、日本とどのように異なるのかを比較しながら、新たな表現を見つけることでした。
しかし、3ヶ月間ヨーロッパで生活をする中で、SNSやインターネット上のコミュニケーションよりも、現実世界でのコミュニケーションがより多様であることに気づきました。非英語圏であり、大陸国家であることから移民の多さ、歴史的背景など、さまざまな要素がコミュニケーションや人々の関わり合いに密接に関わり合っていました。また、その中で生活するうちに、「日本人」である「私」が持っている当たり前や文化の異質さを再確認しました。
そこで、ヨーロッパでの生活で感じた意識を研究に取り入れるため、フィールドワークとして街や人々の観察に出かけました。さらに、ドナウ川の川縁で音楽を流したり、大学のキッチンで料理を作ったりして、自分が行動を起こし、その結果として周囲の反応がどのように変わるのかもリサーチしました。
また、学内の同輩や後輩に向けて、4コマ漫画という形で自分の体験を記録し、不定期ながら学内のSNSで発信していました。投稿するたびにさまざまな反応や反響があり、新たなコミュニケーションが生まれました。リンツとの中継点となることで、異文化や他国の背景を学内に共有し、多様な視点からのコミュニケーションが可能になったことは、とても嬉しい経験でした。
帰国した現在、この体験を元にオープンハウスで作品を展示しました。展示を通して、細かな修正に気づいたり、まだまだ表現がうまくいかない部分があると悔しい思いをしたりもしました。しかし、ここまでシンプルな表現へと舵を切り、今まで描き続けてきた表現に立ち帰れたのも、リンツで過ごした日々があったからこそです。
リンツ美術工芸大学のInterface Culturesの学生や、ギャラリーや美術館で目にしたアーティストたちは、自分の表現や声にしっかり耳を傾け、「自分がしたい、よいと思う表現」を追求していると感じました。そのため、彼らは世界観を作り上げる力や、自分の内にあるものを言葉にする力を持っており、そこから学ぶことがたくさんありました。その中に幸運にも3ヶ月間身を置くことができたおかげで、自分の持っているものを振り返り、表現に生かそうと思えるようになったのかもしれません。
だんだんと風が冷たくなり、秋の気配を感じる中で焦りもありますが、この学びと発見を胸に、さらに成長できればと思っています。次回のope体育_ope体育app|官网では、Interface Cultureの授業の様子や、レントス美術館での展示についてお話しできればと思います。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
最後に、Interface Culture風のご挨拶で失礼します。Ciao ciao! Tschüss!