プロジェクトインタビュー:タイムベースドメディア?プロジェクト
IAMASの教育の特色でもある「プロジェクト」は、多分野の教員によるチームティーチング、専門的かつ総合的な知識と技術が習得できる独自のカリキュラムとして位置づけられています。インタビューを通じて、プロジェクトにおけるテーマ設定、その背景にある研究領域および文脈に加え、実際に専門の異なる教員や学生間の協働がどのように行われ、そこからどのような成果を期待しているのかを各教員が語ります。
三輪眞弘教授、前田真二郎教授、松井茂教授
- プロジェクトのテーマと背景について聞かせてください。
三輪眞弘(以下三輪) 2018年に開始したこのプロジェクトは、アート=芸術表現に取り組んできました。5年間の活動では、ガムラン音楽研究やインターネット上での作品発表?配信を前提とした作品制作などを行ってきました。
前田先生とは、音楽/映像という違いはありますが、同じ「時間内表現」ということを基盤として、何か一緒にできないかということからプロジェクトが始まっています。遡れば一番最初に2人でチャレンジしたのは、2000年に京都と東京で発表したモノローグ?オペラ『新しい時代』でした。この作品では出演者を含めて多くの学生を巻き込んで作り上げました。その後、色々と形は変わりましたが学生と共に「時間内表現」を実践して行くという形式を続け、現在のプロジェクトに至っています。
前田真二郎(以下前田) 近年「タイムベースドメディア」という言葉が一般的にもよく使われるようになってきています。美術の分野だと、電子的な装置を使ったインスタレーションなどの表現全般を「タイムベースドメディア」と呼んだりします。ですがこのプロジェクトでは、音楽や映像作品のように「始まりがあって終わりがある」ような表現形式の作品について考えるということを起点にしています。
1年目から取り組んだのが、インドネシアの伝統音楽であるガムランという音楽です。プロジェクト以外の学生や教員、スタッフが参加するサークルを立ち上げ、合奏の練習を重ねました。学内外で古典曲を発表し、その独特な時間構造だけでなく文化的な側面についても理解を深めました。その他2年目以降はストリーミング配信をテーマとした作品発表にも力を入れました。2020年には、サラマンカホールからの無観客ライブ配信『ぎふ未来音楽展2020 三輪眞弘祭 -清められた夜-』の制作に取り組みました。
松井茂(以下松井) 私はこのプロジェクトには、「時間」というテーマの他に「芸術表現におけるコラボレーション」というのがものがあると考えています。音楽家と映像作家が単純に2人で分業して制作するのではなく、共通する原理を共有した上で、相互に取り替えが利かないようなコラボレーションをする。その上で、このコラボレーションを「表現」として考えるプロジェクトと言えるのではないでしょうか。
私は2020年からこのプロジェクトに参加しましたが、開始時に三輪先生や前田先生から要請されたのは「詩人としてなんらかの取り替えの利かないコラボレーションの方法を考えて実践せよ」ということでした。時間やアルゴリズムなど様々な要素を主題にして取り組んでいますが、一番特徴的でかつ重要なのは、取り替えの利かない複数のものを組み合わせる「方法」を扱うプロジェクトであるということだと考えています。
三輪 日本広しと言えど「ルールベースド」で作品を作る作家がこれほど集まっている場はここしかありません。音楽/映像/テキストと分野は違えど、3人の教員全員が「ルールベースド」という手法を自ら選んだ上で自分の作品制作を行っています。そういう作家が集まってコラボレーションが可能なのはIAMASだけだと断言できます。
- 学生はどのように関わっているのでしょうか?
前田 毎週ゼミ形式のミーティングを行い、そこでリサーチや制作の進捗報告とそれに対するディスカッションを行っています。このミーティングを通して、それぞれの学生は独自の制作を進めていく、最終的には何かしらのプロトタイプ/作品制作をプロジェクトの中で実践して行きます。年度によって学生の参加者の数の増減はあるのですが、概ね5~6名の学生がそれぞれの制作や、共同での制作やイベント運営を行い、オープンハウスやプロジェクト研究発表会で発表をしています。
また、岐阜県美術館との共同の企画である「IAMAS ARTIST FILE」を実践的な取り組みとして位置づけ、実際の展示企画や設置?運営なども進めました。
松井 我々は現在も、第一線で芸術表現のプロとして活動しています。学生と言えども、私達はそういう立場から学生自身を眼差し、作品を指導しています。
また、先ほど話した「コラボレーション」の話で言えば、このプロジェクトでは「コラボレーション」を、様々な知識や経験値から、いわゆる一般的な意味でのコラボレーションとはまた別の定義をしています。我々は、それが理解できるか/掴みきれるかという点を学生に求めています。IAMASは、そういう点を試される場であると考えています。
三輪 そういう意味で、教員が学生に課すハードルはかなり高いものと言えます。しかしながら、「駄目な奴は出て行け」などとは思っていません。むしろ松井先生が仰るように、より長期的な視点で学生の制作活動を見守っています。そこで一番重視するのが学生の本気度です。そのため学生をお客様扱いには絶対にしません。経験を積んできた先輩として、時には学生達には厳しく映るかもしれないことを自覚した上で、表現として不十分な作品に対しては、耳が痛くても「まだ足りない」と言ってあげる存在でありたいと思っています。
聞き手:赤羽亨
※『IAMAS Interviews 03』のプロジェクトインタビュー2022に掲載された内容を転載しています。