プロジェクトインタビュー:Collaborative Design Research Project
IAMASの教育の特色でもある「プロジェクト」は、多分野の教員によるチームティーチング、専門的かつ総合的な知識と技術が習得できる独自のカリキュラムとして位置づけられています。インタビューを通じて、プロジェクトにおけるテーマ設定、その背景にある研究領域および文脈に加え、実際に専門の異なる教員や学生間の協働がどのように行われ、そこからどのような成果を期待しているのかを各教員が語ります。
鈴木宣也教授、赤羽亨教授
- プロジェクトのテーマと背景について聞かせてください。
鈴木宣也(以下、鈴木) かつてはデザインといえばグラフィックデザインやプロダクトデザインなどビジュアルに関する狭義な意味でした。今はデザインが扱う範囲が広がり、グランドデザインのような壮大なものやデザインプロセス、デザイン思考なども含めて「デザイン」と位置付けられるようになりました。
「デザイン思考(Design Thinking)」というデザインを行う際に用いるプロセスや手法をビジネスに活用して課題解決を行う考え方は、2000年代初頭にアメリカのデザインファーム、アイディオ(IDEO)によって提唱され、日本でも一時期ブームになりました。しかし現在ではデザイン思考を取り入れている日本企業はほとんど見当たりません。海外では批判的に捉える人もいるほどです。
デザイン思考が提唱されて20年経った今、あらためて過去を検証し、現状を分析しようと、昨年1年間、赤羽さんと2人だけで「デザインリサーチ方法論への批判的アプローチ」という萌芽プロジェクトを行いました。その延長として今年度から学生も交えて、これからのデザインについて研究するCollaborative Design Research Projectをスタートさせました。
赤羽亨(以下、赤羽) 昨年行った萌芽プロジェクトでは、「デザイン思考」をベースにしたデザインプロジェクトはもはや通用しないのではないかという仮説に基づき、この20年を振り返るためにデザイン思考の専門家や実践者4人に実情をインタビューしました。
話を聞く中で、例えば企業に外部のデザインコンタルタントという立場で関わり、その企業の課題を見つけて解決するアプローチは日本の企業文化にはそぐわないこと、また課題解決のプロセスには一定の方法論はなく、案件や課題ごとに対処療法的に柔軟に動かなければいけない難しさがあることを確認できました。このプロジェクトでは、これまでの課題解決型のデザイン方法を乗り越え、様々な試行を通じて、今後IAMASが関わるべきデザインの方法論やデザインが効果をもたらせる対象を検討することを大きな目標にしています。
鈴木 このプロジェクトではコラボレーションの対象、デザインをする対象も、これまでとは変えていきたいと考えています。IAMASは県立の学校なので、自治体と一緒にプロジェクトを進めやすいという強みがあります。その特徴を活かして、地域や企業に、今までのデザインとは違う方法でアプローチしていきたいと考えています。
赤羽 一般的にデザインが必要と見なされている分野とは違う掛け合わせ先、他の大学が手をつけていないデザイン対象を無理矢理にでも見つけていきたいです。当然ながら、関わる分野や対象によって異なるアプローチや考え方が必要になります。幅広い複数のプロジェクトを同時並行的に試しながら、共通性など全体性を見出していきたいです。実際にやってみると上手くいかないということも起こり得ると思うのですが、このケースではなぜデザインが作用しなかったのかを学術的に考察することにも意義があるはずです。
- 学生はどのように関わっているのでしょうか?
鈴木 今年度は3つのプロジェクトを並行して行い、学生は全てのプロジェクトに関わっています。1つ目は大垣市と共同研究している「イアマスこどもだいがく」に向けたワークショップのデザイン。「イアマスこどもだいがく」ではワークショップ自体をデザインし、学生が主体に運営しました。全員がワークショップのファシリテーションが初めての経験で、参加者に合わせて瞬時に進行を変える経験が面白かったと話していました。
2つ目は飛騨地域の広葉樹の新しい活用方法を模索するプロジェクトです。飛騨地域は針葉樹よりも広葉樹が多いのですが、その多くはチップとして燃料やパルプに利用され、有意義な活用ができていないという課題を持っていました。そこで6月にリサーチトリップを実施。広葉樹の伐採から流通、活用までのそれぞれの工程に関わっている方々を訪れて、現状をリサーチし、今後の可能性を探りました。今は学生それぞれが課題に対するプロトタイプを作っている段階です。
3つ目は大阪の広告代理店と一緒に始めた岐阜県に住む外国人が抱えている課題解決に関する共同研究です。岐阜県に住む外国人は多国籍で、技能実習生として企業が受け入れていたり、仕事を機に移住されたりする、多様な方々が暮らしていますが、必要な行政情報や有益な生活情報が届きにくい状況にあります。そもそも現状何に困っているかも見えていない。これから学生が行うインタビューを通じて、デザインできる対象が見えてくるのではないかと思っています。
赤羽 今年度はバックグラウンドの異なる4人の学生が参加しています。プロダクトデザインを学んでいた学生が1人、残りの3人はいわゆるデザインの経験はないですが、デザイン思考的な手法を学ぶことはそれぞれの研究に生かされていくと思います。ワークショップやデジタルファブリケーションを初めて体験する学生が大半でしたし、リサーチトリップでの経験をope体育_ope体育app|官网として言語化することも良い経験になったようです。短絡的な結果は求めていませんが、来年度は展示など成果を発表する場を作りたいと考えています。
インタビュー収録:2024年2月
※『IAMAS Interviews 04』のプロジェクトインタビュー2023に掲載された内容を転載しています。